Aa ↔ Aa
目安箱
ハーヴェイ
ナマエ
いつもと違う服が似合ってたから柄にもなく褒めてやったのに、
いきなり殴ってきやがった。
訳わかんねえ。何なんだよアイツ。
ナマエ
あの失礼男
フィルさんに新しく作ってもらった服を着てたら、
ハーヴェイのヤツに「馬子にも衣装だな」なんて言われたの。
信じられないでしょ?
失礼しちゃうんだから。
ハーヴェイ
腹立つぜ
ナマエのヤツ、シグルドにばっかりいい顔しやがって。
シグルドは「さん」付けなのに、
何で俺はバカって呼ばれなきゃいけねぇんだよ。
あと、「孫にも衣装」って褒め言葉じゃねえのか?
ナマエ
変なの
今日もちょっとしたことでハーヴェイと言い合いになっちゃった。
あの男、どうしてあんなに無神経なのよ。
少しはシグルドさんを見習えばいいのに。
本人にもそう言ってやったらものすっごく機嫌損ねちゃったんだけど
あれは何だったのかしらね?
ハーヴェイ
ナマエが
怪我の手当てをしてくれるんだけどよ、
文句ばっかり垂れるし乱暴なんだよな。
怪我人には優しくしろってんだ。
ま、一応ありがてぇとは思ってんだけどな。
ナマエ
心配なわけじゃないけど
ハーヴェイってば、危険を顧みないで敵に突っ込んでくのよね。
あんな戦い方じゃ命がいくつあっても足りないと思うんだけど。
手当てする方の身にもなってほしいわ。
別に心配なわけじゃないけどね。
溜まった手紙を整理しながら、オレンジ号の船主である少年は溜息を吐いた。
意見を募るための目安箱は、いつからか愚痴の吐き捨て場と化している。それも、主に特定の差出人によって。整理した分だけでもかなりの枚数があったが、これらはほんの一部に過ぎなかった。
船員同士が円滑な関係を保ってくれるのに越したことはないし、そのためにこの箱が役立てられているならばいい。誰と誰との間に問題があるだとか、そういう状況を自分が知ることが出来れば、もめごとの仲裁でも何でも喜んで引き受けようと思う。
――だが、これらはどう見ても痴話喧嘩ではないか。
やるなら直接やってくれ。どうして自分がこんなものを読まなければいけないのだ。誰かに聞いてほしいなら、いっそ匿名にしてペローのところに寄稿してしまえばいい。少なくともあのつまらない小説よりはよほど受けると思う。
読まずに捨ててしまえばいいと思いつつも、目を通さずにはいられない自分が心底呪わしかった。彼らの投函した手紙を読んでいると、もどかしいようなむず痒いような何とも言えない気分にさせられるというのに。彼ら二人とも、自分より年上のくせしていったい何をしているのだろうか。何が悲しくて、こちらの方が恥ずかしい気分にならなければいけないのだろう。本当にいい迷惑だ。
「お風呂でも入ってこよう……」
こういうときはリフレッシュに限る。
思い立ったままに、少年は道具一式を持って自室を後にした。目指すは第三甲板の奥にある大浴場だ。汚れと一緒に不愉快な気分も綺麗さっぱり流して、上がったあとはまんじゅうでも食べて――。
そうして少年が部屋を離れた後。ややあって一通の手紙が箱の中へと差し入れられたことを、彼はまだ知る由もなかった。
ナマエ
報告
ほんとはこんなこと言うのもすっごく恥ずかしいんだけど、
ここにはお世話になったから書くね。
あのね、アイツ、わたしの事好きだったんだって。
詳しいことは省くけど、アイツに直接そう言われちゃった。
今まであんなに突っかかってきてばっかりだったのにね。
びっくりしたけど、でもうれしかった。
……だって、わたしもそうだったんだもの。
あ、この話は絶対にここだけの秘密にしておいてよ?
ラズロ、今までいろいろ聞いてくれてありがとう。
ここで吐き出してなかったら、きっとイライラも発散できなくて、
アイツともずっと喧嘩ばっかりだったと思うから。